「このまま薬剤師として勤務していたら、5年後、10年後の自分はどうなっているんだろう?」 このwebサイトをご覧いただいている方は、そんなことを自問した経験がある人かもしれません。薬剤師としての働き方の選択肢やその可能性について、薬剤師であり、経営コンサルタントでもある阿久津みづほさんに伺いました。
(2010年10月取材)
薬剤師の供給過多!?首都圏ではすでに充足感も

まず、調剤薬局における薬剤師の就労環境を見てみましょう。平成20年の厚生労働省薬剤師調査によれば、全国の薬剤師267,751人のうち、2人に一人が薬局に従事しています。そのうち薬局勤務は、経営側を除いた116,428人ですが、2年前調査に比べ、1万人強増えています。全国的には人数は増加トレンドにあると言えるでしょう。
年収は需給バランスで決まるので、薬剤師の絶対数の少ない地方では、まだしばらくは薬剤師の売り手市場かもしれません。しかし、首都圏では今年半ばより充足感が出てきており、調剤薬局勤務で450~500万円、管理薬剤師なら~550万円が相場でしょうか。600万円クラスのご希望は、そろそろ難しいはずです。
供給が抑えられてきた背景には、経営側の努力もあって薬剤師の定着率が上がっているのと、薬学部6年制への移行に伴い、一時的に新卒が出ない状況にあるという事情があります。ただ、平成24年(2012年)には初の6年制卒の薬剤師が生まれますし、彼らは6年もかけて"薬剤師"という職業を目指してきた、モチベーションの高い人材であろうと思われます。同時に、ここ数年での薬科大、薬学部の新設ラッシュも、薬剤師の供給増に拍車をかけています。
調剤薬局に勤める薬剤師の年収はもう上がらない?!
調剤薬局以外での需要に目を転じると、これまで薬剤師の採用に積極的だった大手調剤薬局チェーンやドラッグストアも、必要な人材はほぼ確保済みと見られ、今後は年収を引き上げる要因とはなりにくいでしょう。もちろん、ドラッグストアにおいては登録販売者で足りるという面もあります。病院についても、一般に病医院の経営環境が厳しい中で、医師や看護師を減らす事は出来ませんが、薬剤師については削減対象となり得るのではないでしょうか。
以上のことから、調剤薬局に勤務する薬剤師の年収は頭打ちと言えます。また組織の中でキャリアアップといっても、大手の出店ラッシュもひと段落したと考えると、薬局長、管理薬剤師といったポストを目指すのも簡単ではなくなってきています。実際に40代以上の薬剤師がこれまでの高水準な給与を維持できず、転職市場に大量に出てきています。たとえ大手に勤めていても、次のステージが見えないと悩む薬剤師が、少なくないのです。また、これまで製薬会社などに勤務していて調剤経験のない薬剤師が、6年制卒業生が出る前に、少しでもよい調剤薬局でのポストをと転職市場で動いています。
個人薬局なら1日30~40枚で単月黒字も可能に…に続く >>

阿久津みづほ Mizuho Akutsu
薬剤師・中小企業診断士
メディアーチ株式会社・代表取締役。大学卒業後、情報システム開発会社での勤務、米国留学を経て、薬剤師として調剤薬局へ勤務後、医療機関への経営コンサルタントに携わる。中小企業診断士を取得後、2009年にメディアーチ(株)を設立。現在は医療現場での経験と語学力を活かし、医療分野においての各種コンサルティング業務を中心に、海外での中小企業支援業務にも従事している。