「いつかは独立できたらいいな~」そんな風に思ったことのある方は少なくないでしょう。しかし、その後に「でも・・・」と続いた方も多いはず。心配なのは、資金ですか?勇気ですか? 自分に薬局経営なんてできるのだろうかと不安な方のために、薬剤師としての知識・経験のほかに何が必要か、また薬局を運営していく上で大切な経営者マインドについて、薬剤師であり、経営コンサルタントでもある阿久津みづほさんに伺いました。
(2010年10月取材)
目の前のことだけでなく、長い目で見る“数字と人”
日々の業務については、薬局というのは作業フローがはっきりしているので問題ないでしょう。経営者として必要なのは"俯瞰する視点"です。月次で〆たら売上や利益を見て、前月と比べてどうか、前年同月とはどうか、などと分析してみます。その上で何か問題を感じたら、現場で対応できることがないか、自分がすべきことは何かを考え、対処するようにします。
また、年次での計画も必要です。特に人員については、先を見越して考えておかねばなりません。1店舗経営ならまだ、誰か辞めたら入れる、といった対応でもやっていけるかもしれませんが、複数店舗になると、この人員配置に頭を悩ます経営者が多いものです。ボーナス後に退職者が出る傾向もありますし、足りない店舗に社員を入れるのか、派遣やパートで乗り切るのかといった判断も必要でしょう。"急変"に対応するのは大変なので、常日頃から従業員が満足して働けているか、退職や休職の兆しはないか、といったことに気を配ることも大切です。
上記のようなことは、薬局長を経験されていれば自然と考えているかもしれません。薬局長というのは、経営者に向けてのトライアルの機会としても適している立場です。将来開業を考えている薬局長の方はぜひ、自分が社長ならどう対処するか、シミュレーションするつもりで日々を過ごされてみてはいかがでしょうか。
ビジョンをもち、無理なく現場に落とし込んでいく
また、経営者としてはさらに、中長期の視点も必要になります。3年後、5年後を想定した経営的ビジョンの策定です。独立する時に金融機関から借り入れる場合には、その時点で経営計画を提出しますが、それはあくまで数字だけのプランです。ここで言う"経営的ビジョン"というのは、どういう方針で薬局を経営していくのか、という中身の話になります。在宅やOTCに力を入れていくのかなどをイメージし、そのためにはどういう人と設備の準備が必要かを考え、数字に置き換えてみるのです。そうすることで、今やるべき行動が見えてきます。
これからの薬局では、調剤室にいて処方せんが来るのを待っているだけではダメだというのは、よく言われることです。社長であれば、言葉だけでなく行動すべき。では、どうあるべきなのか、そうなるためには何をすべきなのかという、スケジュール感を意識した計画を立ててみることが必要です。中小の薬局だと、方向を絞り込んで進めていかないと、あれもこれもでは現場の負担が増えるだけですし、本業の調剤・服薬指導をおろそかにもできません。現場の体制を整えつつ、攻める。こうした事を考えるのが好きな方は、独立に向いていると言えるでしょう。
阿久津みづほ Mizuho Akutsu
薬剤師・中小企業診断士
メディアーチ株式会社・代表取締役。大学卒業後、情報システム開発会社での勤務、米国留学を経て、薬剤師として調剤薬局へ勤務後、医療機関への経営コンサルタントに携わる。中小企業診断士を取得後、2009年にメディアーチ(株)を設立。現在は医療現場での経験と語学力を活かし、医療分野においての各種コンサルティング業務を中心に、海外での中小企業支援業務にも従事している。